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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)6307号 判決

原告

石井鐵志郎

被告

小林運送株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し、金二五一万七〇五〇円及び内金二三一万七〇五〇円に対する昭和五二年七月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その七を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金一六四五万九八一五円及び内金一四九五万九八一五円に対する昭和五一年七月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  (事故の発生)

昭和五一年六月三〇日午後零時三〇分ころ、千葉県鎌ケ谷市道野辺九三四番地先路上において、被告小島与一の運転する普通貨物自動車(品川一一あ九八四一、以下被告車という。)が走行していた原告の自転車を追い越した際、被告車の荷台の留め金から外れていたシートのゴム輪が、折からの強風にあおられて右自転車のハンドルに引つ掛つたため、原告は自転車ごと左側に転倒して、頭部、頸部を強打し、そのため、原告は左肘部等の切創、擦過傷、左頬部腫脹、左胸部打撲、腰部、頸部、左肩部各捻挫、脳浮腫等の傷害を被つた。

2  (責任)

(一) 被告小林運送株式会社(以下被告会社という。)は、本件事故当時、被告車をその業務に使用し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二) 本件事故当時、強風が吹いており、被告車荷台のシートのゴム輪が留め金から外れたままで走行するときは、右ゴム輪が風にあおられて側方へ飛び出し、並進する自転車、通行人等に引つ掛つてこれを転倒させる危険が十分予想されたところであるから、被告小島としては、右ゴム輪が外れたままで被告車を運転してはならないのにかかわらず、これを怠り、右ゴム輪が荷台の留め金から外れたまま漫然と被告車を運転した過失により本件事故を発生せしめたのであるから、同被告は民法七〇九条に基づき、本件事故により生じた後記損害を賠償すべき義務がある。

3  (受傷後の経過)

原告は、前記のような受傷を被つた結果、永続的な器質変化としての脳萎縮及び頸首腕症候群、大後頭神経・三叉神経症候群の後遺症が残り、右受傷及び後遺症治療のため

(一) 昭和五一年七月一日から同月二一日までの二一日間、訴外田辺整骨科院による応診を受けたうえ、同月二二日から同年八月三一日までの間に同院に三五日通院、

(二) 昭和五一年八月二六日訴外倉本病院に通院した後、同年一〇月一日から昭和五二年四月三日まで一八五日間同病院に入院、

(三) 昭和五二年三月一六日から同年一〇月三一日までの間に、訴外社会保険船橋中央病院に四日間通院したほか、一二二日間(昭和五二年四月四日から同年八月三日まで)入院、

(四) 昭和五二年八月一六日から同年一〇月二四日まで七〇日間訴外医療法人甲州中央温泉病院に入院

したほか、現在なお通院治療中であるが、いまだに頭痛、頭重、項痛、耳鳴り、四肢の痺れ感、不眠、記銘力低下、注意力散漫、易疲労、頸部ないし左上肢の疼痛、左肩関節痛、左大腿部疼痛、左片麻痺、手指組作業困難、跛行、左右の腕を水平以上に上げることができないなどの症状に悩まされている。

4  (損害)

(一) 入、通院治療費

原告は、前記3(一)ないし(四)の入、通院治療費として

(1) 前記3(一)の訴外田辺整骨科院では金八三万二〇〇〇円

(2) 前記3(二)の訴外倉本病院では金一〇〇万六〇一〇円

(3) 前記訴外社会保険船橋中央病院では本人負担分金一万二〇〇〇円を含む金九五万六五〇〇円

(4) 前記医療法人甲州中央温泉病院では本人負担分金七七〇〇円を含む金四二万三〇六〇円

をそれぞれ要した。

(二) 入院雑費

原告は、前記3(二)ないし(四)の各入院期間中、雑費として一日当たり金六〇〇円を要したが、このうち二五四日分合計金一五万二四〇〇円を請求する。

(三) 付添費

(1) 原告は、昭和五一年七月一日から同月二一日までの二一日間自宅に往診を受けて療養したが、その間起居できず、入院した場合と同様の付添看護を要する状態にあつたほか、前記3(二)の訴外倉本病院への入院中、入院当初の同年一〇月一日から同月二五日までの二五日間も付添看護を要する状態にあつたので、右各期間中、いずれも原告の妻である訴外石井フミエが原告に付添つたものであるところ、右付添費は一日当たり金二五〇〇円、合計金一一万五〇〇〇円が相当である。

(2) 原告は、前記3(一)の訴外田辺整骨科院への三五日間の通院期間中、通院に付添を要し、前記フミエが付添つたが、右付添費は一日当たり金一五〇〇円、合計金五万二五〇〇円が相当である。

(四) 休業損害

原告は、本件事故当時、溶接工として一か月当たり金一五万二六六六円の収入を得ていたところ、本件事故による受傷のため昭和五一年七月一日から昭和五三年一月末日まで休業を余儀なくされ、この間に合計金二九〇万六五四円の得べかりし利益を失つた。

(五) 逸失利益

原告は、右のとおり本件事故当時一か月当たり金一五万二六六六円の収入を得ていたところ、本件事故により前記のとおりの後遺症が残存し、右後遺症による障害は自動車損害賠償保障法施行令別表後遺障害別等級表七級四号に該当するところ、右後遺障害は昭和五三年二月一日から少なくとも七年間残存し、その間五六パーセントの労働能力を喪失するものとみるべきであるから、これらを基礎とし、その得べかりし逸失利益額から年五分の割合による中間利息をライプニツツ方式により控除して現在価額を求めると、その額は金五三一万九五六一円となる。

(六) 慰藉料

(1) 入通院慰藉料

原告は、前記のように入、通院治療を受け、その間精神的苦痛を受けたが、これが慰藉料は金二二〇万円が相当である。

(2) 後遺症慰藉料

原告は本件事故により前記3のとおりの後遺症が残存し多大の精神的苦痛を受けたが、これが慰藉料は金四一八万円が相当である。

(七) 損害の填補

原告は、右損害に関し

(1) 自動車損害賠償責任保険から、前記3(一)の訴外田辺整骨科院の治療費として金八三万二〇〇〇円

(2) 社会保険から、前記3(二)の訴外倉本病院の治療費として金一〇〇万六〇一〇円、前記3(三)の訴外社会保険船橋中央病院のそれとして金九四万四五〇〇円、前記3(四)の訴外医療法人甲州中央温泉病院のそれとして金四一万五三六〇円

のてん補を受けた。

(八) 弁護士費用

原告は、原告訴訟代理人に本件訴訟の提起追行を委任し、右手数料として金二万円を支払つたほか、謝金として金一五〇万円を支払う旨約した。

よつて、原告は、被告らそれぞれに対し、損害賠償として金一六四五万九八一五円及び内弁護士費用の未払分金一五〇万円を除いた金一四九五万九八一五円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五一年七月一日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実中、主張の日時に主張の場所を被告小島が被告車を運転し、原告が自転車に乗車してそれぞれ走行したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は、被告車が事故現場の交差点で赤信号のため停止線で停止し、停止した後一〇秒ないし一五秒を経過してから、後方から走行してきて被告車の後部左端に衝突したものである。なお右の際原告は頭部を打撲しておらず、仮に打撲していたとしてもごく軽度であり、脳浮腫等の重篤な脳損傷の原因になる程のものではない。

2  同2(一)のうち、被告会社が、本件事故当時、被告車をその業務に使用し自己のため運行の用に供していたことは認めるが、その余の主張は争う。(二)の事実は否認する。前記のとおり、原告は被告車に後方から衝突したもので、同事故は専ら原告の前方不注視の過失によつて発生したものであり、被告小島には過失がない。

3  同3の事実中、現在原告に左片麻痺の症状があることは認めるが、入、通院の事実は知らない、その余の事実は否認する。原告は前記事故の際頭部を打撲しておらず、しかも右の左片麻痺は本件事故から三か月も経過した昭和五一年一〇月一日になつて発症したもので、同左片麻痺は外傷とは無関係な原告の脳血管障害に起因し、本件事故との間に因果関係はないというべきである。

4  同4の事実中(七)の事実は認めるが、その余の事実は知らない。

三  抗弁

1  被告会社の免責の抗弁

前記原告の自転車と被告車の衝突は専ら原告の過失により発生したもので、被告小島に過失のないことは前記請求の原因に対する認否において主張したとおりであり、また、本件事故当時、被告車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

2  被告らの過失相殺の抗弁

仮に、右1の免責の主張が理由がないとしても、同事故の発生については前記のとおり、原告の過失に起因するところが大きいから、右損害額の算定に当たつては大幅な過失相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2の主張はすべて争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証の一ないし五、被告小島与一及び原告各本人尋問の結果を総合すると、昭和五一年六月三〇日午後零時三〇分ころ、原告が足踏み式自転車に乗つて千葉県鎌ケ谷市道野辺九三四番地先の県道(車道幅員七・四メートル)上の、車道左端から約一メートルの地点を南に向けて走行し、その先の交差点に設けられた停止線の手前一〇数メートルに至つた際、後方から進行してきた被告小島運転の被告車が追いつき、原告自転車の右側を追い抜きかけたとき被告車の荷台を覆つていたシートの左後端に取り付けられていた長さ約一メートルの荷止め用ゴム輪が折柄の風にあおられて流れ、同ゴム輪が原告自転車のハンドル右側に突然引つ掛つてハンドルがとられたため、原告自転車は安定を失つて転倒したこと、右荷止め用ゴム輪は荷台のシートを留めるためのもので、右事故当時それが留め金から外れて垂れ下がつており、しかも当時は相当強風が吹いていたことが認められ、乙第一号証の二のうちの被告小島与一の指示説明部分及び同本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲証拠と対比して措信できず、他に右認定を左右する証拠はない。

二  しかして、被告会社が被告車を業務に使用し、自己のために運行の用に供していたものであることは、原告と被告会社との間に争いがない。

被告会社は、自己に賠償責任がない旨主張するが、同主張は被告車が停車した後暫らくして原告自転車が後方から追突したとの事実を前提とするもので、既に右の点において失当であるのみならず、前記認定事実によると、前記事故は、被告小島が荷止め用ゴム輪の留め金から外れたまま被告車を運転したことが事故の原因で、前記事故は同被告の過失によつて発生したものであることが明らかであるから、その余の点について判断するまでもなく、被告会社の免責の主張は理由がないものというべきである。

したがつて、被告会社は自動車損害賠償保障法三条に基づき、また被告小島については同被告の過失によつて前記事故が発生したものであることは右判示のとおりであるから、同被告は民法七〇九条に基づき、それぞれ前記事故により原告の被つた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

なお、被告らは原告にも過失があつたから損害額の算定に当たつて考慮すべきであると主張するが、前記認定のとおり事故の態様そのものが被告らの主張と異なるうえ、右事故状況の下においては原告に過失があつたものということはできないので、被告らの右主張は採用できない。

三  次に、原告が本件事故により被つた傷害及び後遺症の有無、程度について判断するに、成立に争いのない甲第三一号証、乙第四号証の三、原告本人尋問の結果により成立の認められる甲第五ないし第九号証、第一二ないし第二二号証(甲第一二、第一三号証は原本の存在につき争いがない。)、証人斎藤隆の証言、被告小島与一本人尋問の結果、原告本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)、関東労災病院に対する鑑定嘱託の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告は前記のとおり路上に転倒した際、左肘部、腰部左側を路面で強打したが、直ぐに起き上がり停止線のところに停止した被告車の運転席に近づき、窓ガラスを叩いて被告小島に対し本件事故のあつたことを告げてから、路上に倒れていた自転車を被告小島と共に被告車の荷台に積み込んだうえ被告車に同乗して訴外倉本病院に行き、前記打撲部位等の応急治療を受けた後、そこから原告方に戻り、同所で原告、被告小島、に訴外堀武夫(被告会社の事故係)と原告の甥を交えて示談交渉を行つたが、合意が成立しなかつたため、原告の申出で、共に船橋警察署に出頭して担当の警察官に前記事故の発生を報告し、その状況を説明した後、再び原告方に戻り、被告小島及び訴外堀連名による原告の損害を賠償する旨の書面(甲第二号証)を差入れさせたこと、ところが、翌七月一日になつて原告はほぼ全身にわたる痛みを覚えるようになつたので、同日から同月二一日までの二一日間、訴外田辺整骨科院(接骨師訴外田辺修司)の応診を受け、同月二二日から同年八月三一日までは引き続き同院に通院(実日数三五日)して右田辺の施療を受けたが、八月三一日の時点で原告にはなお頸部運動痛、左胸部圧痛、左肩筋内痛、腰痛等の主訴があつたこと、そして同年一〇月一日、突然、原告の左半身に痙攣発作が起こり、左片麻痺の症状が現れたため、同日直ちに訴外倉本病院に入院し、昭和五二年四月三日までの一八五日間同病院に入院して治療を受けたが、その間同病院では原告に対し主として外傷性頸腕症候群の疑いがあるとして治療を加え(なお、原告は右入院前の昭和五一年八月二六日にも頭痛等の主訴で同病院に通院している。)、その後原告は転院して昭和五二年四月四日から同年八月三日までの一二二日間訴外社会保険船橋中央病院に入院したが、右入院期間における原告の主訴は、頭痛、頭重感、頸部痛、左肩・左腕の痺れと同部位の疼痛、腰痛、左下肢痛、左上下肢脱力感というもので、右主訴は入院当初以来退院時まで変わることがなく、同病院では前記倉本病院とほぼ同様に、原告の症状を頸部捻挫による外傷性頸腕症候群(殊に、右症候群のうち、いわゆる不定愁訴の性格を有する、「バレリユー型」)に原因不明の左片麻痺が加わつているものと見て治療を加えたものであること(なお、原告は、右入院期間を除き、そのほかにも昭和五二年三月一六日から同年一〇月三一日までの間に四日間、同病院に通院している。)、更に原告は昭和五二年八月一六日から同年一〇月二四日までの七〇日間、訴外医療法人甲州中央温泉病院に入院し、同病院では専ら左片麻痺治療のため、理学療法を受けたもので、その後病院の投薬を受けて自宅で療養中であるが、昭和五三年一二月現在なお頭痛、頭重感、頸部痛、腰痛、左耳鳴り、左肩凝り、目が霞む、左上下肢の痺れ、左手足の動きが悪い、疲れ易い等の主訴が存在する一方、左片麻痺(左顔面神経麻痺を含む。)及び左半身感覚障害(顔面を除く。)の各症状が存在すること(左片麻痺の存在することは当事者間に争いがない。)が認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

しかしながら、関東労災病院に対する鑑定嘱託の結果によると、原告は前記認定のように本件事故による受傷の約三か月後にけいれん発作を起こし、以後左片麻痺の症状が起きたものであるうえ、原告には本件事故による受傷前から高血圧症があり、昭和五三年一二月時におけるCTスキヤン検査によると陳旧性の脳出血あるいは脳梗塞の血管障害を疑わせる所見があり、一方脳波検査によつても外傷性てんかんを疑わせる所見もないから、原告の前記症状のうち左片麻痺及び左半身感覚障害は本件事故に基づくものか否か疑わしいものといわなければならない。

更に、原告は、本件事故によつて脳浮腫が生じ、これにより永続的な器質変化としての脳萎縮を生じた旨主張し、原告の援用する甲第二六号証には、CTスキヤン検査によると原告の脳に拡散性脳萎縮が存在する旨の記載があるが、一方関東労災病院に対する鑑定嘱託の結果を記載した書面では、CTスキヤン検査によると、原告の脳の右前、側頭葉に陳旧性の脳出血あるいは脳梗塞を疑わせる所見があるとの記載はあるが、脳萎縮がある旨の記載がなく、果して原告に脳萎縮があるものか否かにわかに断定することはできず、仮にそれがあるとしても証人斎藤隆の証言によると、脳萎縮はアルコール中毒、薬物中毒、脳軟化、脳塞栓等の脳血管障害によつても生ずることが認められるのみならず、原告自身その本人尋問において、本件事故の際頭部は打つていない旨供述しており、前記認定のように原告が本件事故直後から病院のほか警察署に赴き、更に被告らと示談交渉をし、損害賠償に関する書面を差入れさせていることなどを併せ考えると、原告が本件事故によつて脳浮腫を生ずるような頭部打撲による障害を受けたものとは認め難い。

以上のとおり原告の前記各症状のうち左片麻痺及び左半身感覚障害については本件事故との間の因果関係が疑わしく、また脳萎縮についてもその存在及び因果関係が疑わしいから、結局原告が本件事故により受けた傷害は左肘部、腰部左側打撲のほか頸椎捻挫の各傷害にとどまり、同頸椎捻挫の続発的症状ないし後遺症としての外傷性頸腕症候群の各症状すなわち、頭痛、頭重感、頸部痛、腰痛、左耳鳴り、左肩凝り、目の霞み、易疲労等の症状が発現しているのであつて、しかも右後遺症は症状及びその経過に照らし、昭和五二年八月三日にその症状が固定したものと認めざるを得ない。

四  そこで、損害について判断する。

1  治療費

(一)  前掲甲第一三号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は前記三の訴外田辺整骨科院での通院治療費として金八三万二〇〇〇円を要したことが認められる(右認定を左右する証拠はない。)が、右治療費については自動車損害賠償責任保険から全額填補ずみであることが当事者間に争いがないから、右治療費に関する損害残額はないこととなる。

(二)  前掲甲第一五ないし第一七号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は前記三の訴外倉本病院に対する入・通院治療費として合計金一〇〇万六〇一〇円を要したことが認められる(右認定を左右する証拠はない。)が、右治療費についても全額社会保険から填補を受けたことが当事者間に争いがないから、右治療費に関し本訴において原告が請求し得べき損害残額はないこととなる。

(三)  前掲甲第一九号証及び原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によると、原告は前記三の訴外社会保険船橋中央病院での入・通院治療費として本人が直接支払つた金一万二〇〇〇円を含め合計金九五万六五〇〇円を要したことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。もつとも前記三における認定によると、右訴外病院における治療は本件事故に基づくものとは認められない左片麻痺についてもなされており、その関係の治療費の数額は右の各証拠によつても明らかでないが、うち社会保険から填補を受けたことが当事者間に争いのない金九四万四五〇〇円についてはともかくとして、少くとも原告が直接支払つた金一万二〇〇〇円については本件事故に基づく傷害の治療と認めるのが相当である。

(四)  原告は、前記三の訴外医療法人甲州中央温泉病院での入院治療費として金四二万三〇六〇円を要した旨主張するが、前記認定のとおり、同病院での治療は専ら片麻痺に対するもので、右片麻痺は本件事故に基づくものと認められないことはこれまた前記認定判示のとおりであるから、右事実の有無を判断するまでもなく、右請求は失当というべきである。

2  入院雑費

原告が訴外倉本病院に一八五日間、訴外社会保険船橋中央病院に一二二日間、合計三〇七日間入院したことは前記三において認定したとおりであり、右入院期間中、入院雑費として、少くとも一日当たり、金六〇〇円、合計金一八万四二〇〇円を支出したことは容易に推認されるところである(なお、訴外医療法人甲州温泉病院への入院については、それが専ら左片麻痺の治療のためになされたものであることは前記認定のとおりであるから、既にこの点で、右入院雑費を本件事故による損害ということはできない。)から、右金額の範囲内における原告の請求(金一五万二四〇〇円)は相当である。

3  付添費

(一)  前掲甲第一二号証及び原告本人尋問の結果によると、原告は昭和五一年七月一日から同年七月二一日までの間、本件事故による受傷のため全身に痛みを覚え、起居が困難であつたため、自宅において療養していたが、この間付添看護を必要とし、原告の妻である訴外石井フミエが付添看護を行つたことが認められるので、この間の付添費としては、一日当たり金二〇〇〇円、合計金四万二〇〇〇円と認めるのが相当である。

更に、前掲甲第一四号証、原告本人尋問の結果によれば、前記訴外倉本病院における入院期間中である昭和五一年一〇月一日から同月二五日までの間も原告は付添を必要とし、前記フミエが付添看護を行つたことが認められる(右認定を左右する証拠はない。)ので、右の間の付添費としては右と同様一日当り金二〇〇〇円合計金五万円と認めるのが相当である。

(二)  次に、原告は、前記三の昭和五一年七月二二日から同年八月三一日まで訴外田辺整骨科院に通院した際、付添を受け、付添費相当の損害を被つた旨主張するが、右通院にあたつて付添が必要であつたと認めるに足りる証拠はないので、右費用を損害として認めることはできない。

4  休業損害及び逸失利益

成立に争いのない甲第三、第四号証及び原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故当時、訴外有限会社広野工業所に半自動アーク溶接見習工として勤務し、一か月当たり金一五万二六六六円の収入を得ていたところ、本件事故後欠勤し、給与の支給を受けていないことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。ところで、前記三認定の本件事故による受傷及び後遺症の程度・内容ならびに原告の職種等を勘案するならば、原告は、本件事故により、昭和五一年七月一日から同年九月末日までは一〇割、同年一〇月一日から同年一二月末日までは五割、昭和五二年一月一日から同年四月三日までは三割、同年四月四日から同年八月三日までは一割の、それぞれ休業損害を被つたものと認めるのが相当であり、更に同年八月四日から昭和五五年八月三日までは、前記後遺症のため、その労働能力の五分を喪失したものと認めるのが相当であるから、前記原告の事故前の収入を基礎とし、右後遺症による分についてはライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、それぞれ休業損害及び逸失利益損害(昭和五二年八月三日の現在価額)を求めると、その合計額は金一一六万六五〇円となる。

5  慰藉料

原告は、前記のとおり、本件事故により傷害を被つて、入・通院治療を受けたが、なお後遺症が残り、そのため、かなりの精神的苦痛を被つたことは容易に推認することができ、事故の態様、受傷の内容、程度、後遺症の程度等諸般の事情を勘案するならば、右苦痛に対する慰藉料は、入・通院に対する分として金五〇万円、後遺症に対する分として金四〇万円が相当である。

6  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告は本件訴訟の提起追行を原告訴訟代理人に委任し、着手金として金二万円を支払つたほか、謝金として金一五〇万円を支払う旨約していたことが認められるが、本件訴訟の難易度、認容額等を考慮すると、本訴において弁護士費用として認容すべき額は金二〇万円が相当である。

五  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らそれぞれに対し金二五一万七〇五〇円及び内弁護士費用分を除いた金二三一万七〇五〇円に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年七月一五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからこれを正当として認容し、その余は理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九三条、九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川昭二郎 福岡右武 金子順一)

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